top of page

​「口腔とその周辺の習癖」と顎関節症について①

  習癖のなかで重要なものは、歯列や顎骨、顎関節へ力を及ぼす生活習慣や反復動作、楽器演奏やスポーツなどすべてが含まれる。このうち口呼吸習癖では、反対咬合や交叉咬合、開咬などが顎関節症に関連する。習癖により生ずる力は口呼吸に伴う嚥下時の舌の突き出し習癖(tongue thrust)では、前歯に対して約40gから60g程度である。
 一方、睡眠姿勢習癖は、スタラート(Stallart)が指摘していたよう
に歯列の形状に重大な影響を及ぼす。頭蓋の重量は約5kgあるが、
側方位の睡眠姿勢では一部の体重が加わるため約6kgとなる
(図22参照)
俯せ姿勢では胸部の体重が加わるため約9kgにもなる。一般に側方位
ないし俯せ姿勢では顔面頭蓋の消化器部位に枕を当てて重量を支える。
したがって側方位で大臼歯が受ける側方力や、俯せ姿勢で前歯部、犬歯
が受ける側方力により、歯列弓の形状が容易に変化すると考えられる。
通常の歯列矯正では、前歯部で20kgから70kg、大臼歯では500g
程度の一定の側方力により歯を移動させるが、これらの力と比較して
睡眠姿勢により頭蓋の重量が歯に作用する側方力が相当に大きいことが推察される。
 睡眠姿勢習癖は歯列と顎骨の形態に著明な影響を及ぼすとともに、多くの場合、顎関節に頭蓋の重量が作用して障害を生じる。歯列弓に作用して歯周疾患の進行にも影響を及ぼすので歯科学的にも重視すべきである。
わが国では欧米に比べて従来は枕が小さく硬いため、歯列、顎骨および顎関節に与える影響はきわめて大きい。従来ディスクレパンシー(discrepancy)と考えられていた顎骨と歯列弓の不調和は、頭蓋の重量が歯列に作用した結果で生ずる歯列弓の狭窄に起因している可能性が高い。学童期から生活習慣の指導による健康教育対策が早急に望まれる。
​ 片側咀嚼癖は最近、徐々に注目されてきているが、いまだに臨床家の間ではあまり認識されていない。本習癖は、今日、咀嚼サイクルにおける一方の咀嚼側の優位性または選択傾向(preference)と考えられているが、一般に反復性動作の傾向性を習癖とよびので、片側咀嚼習癖として考えるべきであるう。この習癖は人により程度が異なり、完全な片側咀嚼習癖の者からわずかな偏りの者までさまざまなパターンが認められている。程度の差は多様だがほとんどすべての人に存在する傾向性で、自覚されることがほとんどなく、また矯正のきわめて困難な習癖である。この傾向性に関して、咀嚼筋の電気生理学的研究が今日行われているが、習癖としては把握されていない。


                               出展:「顎・口腔の疾患とバイオメカニクス」 歯科医学の新しいパラダイム 
​                                   西原 克成 著
                               発行元:医歯薬出版株式会社


 

nisihara 1_edited.jpg
bottom of page