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歯科技工術論文のご紹介4

 今回は、以前ご紹介いたしましたプラズマ電解研磨と従来の機械的研磨方法の比較結果について論文をご紹介たします

Mechanical and Plasma Electrolytic Polishing of Dental Alloys
​歯科用合金の機械研磨とプラズマ電解研磨

 Katharina Witzke 1,* , Renko Kensbock 1 , Caroline Ulrike Willsch 1 , Katja Fricke 2 , Sander Bekeschus 2,3,† and Hans-Robert Metelmann 1,†

機械的研磨:歯科用合金の表面を機械的に削り、滑らかにする工程。特に、タングステンカーバイド

      やダイヤモンドバーを使用して、歯科修復物の精密な仕上げが行われます。


プラズマ電解研磨(PEP): プラズマと電解液を用いて合金表面を化学的かつ物理的に研磨する高度

      な技術。PEPは、従来の機械的研磨では達成しにくい超微細な表面仕上げが可能で、特

      にチタンやコバルトクロム合金の表面処理に適しています。

 要 約
(1) 背景: 歯科では、表面の粗さを減少させるために、通常は機械的研磨が行われています。これはバイオフィルムの付

    着を抑制するためです。しかし、この方法は時間と労力がかかります。プラズマ電解研磨は、短時間で処理で

    きることから、歯科用途において効果的な仕上げ方法と考えられています。


(2) 方法: Co-Cr-Mo歯科合金のサンプルをサンドブラスト処理し、プラズマ電解研磨または従来の機械的研磨で仕上げ

    ました。研磨方法の評価は、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、およびエネルギー分散

    型X線分光法(EDX)を使用して行いました。


(3) 結果: サンドブラスト処理された試料は最も高い表面粗さを示しました(Heraenium® Sun 991 ± 288 nm、

    Wironit® 1187 ± 331 nm)。プラズマ電解研磨では、Co-Cr-Moの表面がナノメートルレベルの粗さで研磨

    され、従来の機械的研磨と同等の結果が得られました。従来の機械的研磨(Heraenium® Sun 134 ± 23

    nm、Wironit® 114 ± 11 nm)は、プラズマ電解研磨(Heraenium® Sun 288 ± 94 nm、Wironit® 261

    ± 49 nm)と比較して、より低い表面粗さ値を示しました。我々のパイロット研究は、プロセスパラメータの

    精緻化および定量的微生物学的アッセイのための将来の研究の出発点となると期待しています。


(4) 結論: プラズマ電解研磨は、歯科合金の研磨に有望な未来があるかもしれません。

キーワード: 歯科合金、表面粗さ、従来の機械的研磨、プラズマ電解研磨、AFM、SEM、EDX

1. はじめに
 非貴金属の歯科用合金は、歯科において世界中で広く使用されており、固定および可撤式の補綴物に使用されています。これらの歯科用合金は、Co-Cr-Moをベースとしています。Co-Cr合金は1929年から現在にいたるまで利用されています【1】。その構造に関する詳細な知識は、Uriciucら(2015)によって提供されています【2】。バイオフィルムの形成、腐食、および表面の粗さは相互に関連しており、歯科用合金の寿命を決定します。歯科用合金の表面粗さは、バイオフィルムの付着と形成の重要な指標です【3】。口腔バイオフィルムは、口腔内の表面に強く付着する微生物と細胞外マトリックスから成る複雑なネットワークです【4】。このネットワークは、宿主の防御や抗生物質などの有害な外部影響からの保護を確保し、特定の条件下では有害な細菌の増殖を可能にします【5,6】。さらに、二次う蝕は補綴物の交換の一般的な理由です【7,8】。したがって、歯科用合金の金属表面は、バクテリアの付着を防ぎ、バイオフィルムの形成を抑制するために、可能な限り滑らかである必要があります【9】。最適なバイオフィルム抑制のための閾値表面粗さは約0.2 µmと提唱されています【10】。口腔内の代表的な細菌であるミュータンス連鎖球菌は、平均半径が0.3 µmであり、同程度の大きさです【11】。


 歯科技工士による従来の機械的研磨は、現在の歯科用合金の調整における標準的な方法です【12】。文献では、機械的に研磨された歯科用合金の表面形態と表面粗さを調査するためのさまざまな試みがなされています【2,13,14】。プラズマ電解研磨は、環境に優しい新しい研磨方法であり、処理時間と必要な設備が少ないことが特徴です【15,16】。プラズマ電解研磨システムは、硫酸アンモニウムなどの水性電解液等で満たされたバスと陰極を備えている装置です。一般に、補綴物は陽極側に極性化され、浸漬されます。電気化学反応の組み合わせにより、補綴物の周りにプラズマ層が形成され、表面のピーク(凸部)を除去します【17】。Zeidlerら(2016)は、プラズマ電解研磨によって得られた歯科用Co-Crクラウンおよび部分義歯フレームワークの研磨効果をマクロ写真で示しました。原子間力顕微鏡を用いて表面粗さを分析するためにさまざまな顕微鏡法を使用した比較研究は、これまでほとんど行われていません。

 

 本研究の目的は、サンドブラスト処理、プラズマ電解研磨、および従来の機械的研磨を受けたCo-Cr-Mo合金をマイクロスケールからナノスケールまで比較することです。本研究の独自性は、実体顕微鏡、原子間力顕微鏡(AFM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、およびエネルギー分散型X線分光法(EDX)を使用して研磨方法を体系的に比較した点にあります。

 

2. 材料と方法
 2.1 金属合金試料

比較のために、2種類の市販の非貴金属コバルト-クロム系歯科用合金の試料を選択しました(表1を参照)。

​表 1

表1. 使用頻度の高い非貴金属歯科用合金

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 20個の試料(n = 10 Heraenium® Sun 、n = 10 Wironit®)は従来の機械的研磨によって研磨され、別の20個の試料(n = 10 Heraenium® Sun 、n = 10 Wironit®)はプラズマ電解研磨で仕上げられました。歯科クラウンや部分義歯フレームワークの金属鋳造時に残った余剰材料を基材として使用し、機械的研磨とプラズマ電解研磨を比較しました。
 Wironit®の試料作製には、調整用鋳造ワックス(Berg Dental, Engen, Germany)と、混合液(Expansion Liquid Type 100, Siladent, Goslar, Germany)で調整した歯科モデル用の精密歯科鋳造埋没材(Micro, Siladent, Goslar, Germany)が使用されました。Heraenium® Sunの試料には、特定の混合液(Cehacast FS, Hafner, Wimsheim, Germany)で調整された、別の歯科鋳造埋没材(Cehacast Speed, Hafner, Wimsheim, Germany)が使用されました。歯科モデルは同じ歯科用ファーネス(MIHM-VOGT, Stutensee-Blankenloch, Germany)で950℃~1050℃に予熱され、それぞれの該当金属合金を約1500℃で鋳造を行ないました。冷却後、ハンマーで取り出し、サンドブラスト(KaVo Dental GmbH, Biberach/Riss, Germany)及びアルミブラスト(粒径250 µm, HS-Edelkorund, Henry Schein, Langen, Germany)で処理しました。Heraenium® Sunの試料は、さらにビーズブラスト(ガラスビーズサイズ50 µm, Henry Schein, Langen, Germany)でも処理されました。その後、試料はスチームクリーナー(Wasi-Steam 2, Wassermann Dental-Maschinen, Hamburg, Germany)で最大6バール、最高温度164°Cで洗浄しました。試料は歯科技工所用ハンドピース(Kavo K9, Biberach, Germany)と切断ディスク(HS-Trennscheibe für Metalle, Henry Schein, Langen, Germany)を使用して半分に分割されました。図1は試料の肉眼的形態を示しています。

​図 1
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図1. Co-Crサンプルの実体顕微鏡画像


(a) サンドブラスト処理されたHeraenium® Sun試料、(b) 機械的に研磨されたHeraenium® Sun試料、(c) プラズマ電解研磨されたWironit®試料。

 2.2. 従来の機械的研磨
 最初に、汎用研磨剤(Ref. 652900303533220, Hager & Meisinger, Neuss, Germany; LOT 2202, Voss Dental, Salzhausen, Germany)と、前述の歯科技工用ハンドピース用のAl2O3コランダム研磨剤(Ref. 625104107523065, Hager & Meisinger, Neuss, Germany)を使用して初期研磨を行いました。その後、試料は以下の順序でゴム研磨されました。Co-Cr-Mo合金用の研磨剤(ChromoPol UM, Edenta, Au, Switzerland)、ゴム製研磨ホイール(Ref. 43370, Bego, Bremen, Germany)、汎用研磨剤(Ref. 652900303533220, Hager & Meisinger, Neuss, Germany)、およびゴム製研磨チップ(Ref. 43370, Bego, Bremen, Germany)を使用しました。高光沢仕上げは、機械研磨ユニット(Typ WP-EX 2000, Wassermann Dental Maschinen, Hamburg, Germany)を使用して得られ、最初に高光沢研磨ブラシ(Polirapid Germany, Singen, Germany)とリューサイト研磨ペースト(Hera GPP 99, Kulzer, Hanau, Germany)を使用しました。その後、別の高光沢研磨ブラシと汎用研磨ペースト(Ivoclar Vivadent, Eilwangen, Germany)が使用されました。研磨速度は、メーカーの推奨に従って5000から35,000 rpmの範囲で変動させました。研磨の方向は常に変化させました。研磨後、試料を超音波洗浄装置(Stammopur RD5, Dr. H. Stamm GmbH, Berlin, Germany)に入れ、その後Wasi-Steam 2でスチーム洗浄されました。


 2.3. プラズマ電解研磨
 試料は、自社開発されたプラズマ電解研磨システムを使用して処理されました。研磨システムは、硫酸アンモニウム溶液(濃度5%w/v、導電率110 mS/cm)、320 Vの印加電圧、および70℃の直流電流で操作されました。各試料はグリッパーで保持され、陽極として機能し、ステンレスバスが陰極となります。データ記録用の制御ソフトウェアはLabViewベース(National Instruments Germany、ドイツ・ミュンヘン)、試料は5分間処理されました。電流は熱源として機能し、電解液中で蒸気層が試料表面近くに形成され、エッチングプロセス(陽極が水素イオンを引き寄せる)を促進します。処理後、試料表面に付着した析出塩を綿布で拭き取りました。さらに、4つのHeraenium® SunおよびWironit®試料を処理時間(5、10、20、30分)で例示的に記録しました。


 2.4. 実体顕微鏡、走査型電子型電子顕微鏡(SEM)および原子間力顕微鏡(AFM)観察
 研磨前後の試料の表面構造は、Stereozoom SZX 10 with KL1500LCD(Olympus, Hamburg, Germany)で記録されました。SEMでは、Quanta FEG 250 SEM(FEI Company, Eindhoven, The Netherlands)を使用して、試料の高解像度画像(20×から5000×の拡大率)を得ました。高真空モード(HighVac-SEM)、加速電圧10 kV〜20 kV、装置固有のスポットサイズSpot 3で操作しました。各試料は、カーボン粘着ディスク、Leit-Tab、および銅粘着テープ(Piano, Wetzlar, Germany)を使用してSEMプレートに配置されました。試料表面の塵粒子は、加圧空気(Druckluft 67; CRC Industries Europe BVBA, Zele, Belgium)で除去されました。AFMでは、NanoWizard 1 AFM、NanoWizard Control Software v.5.0.97、およびData Processing v.5.0.97(JPK instruments, Berlin, Germany)を使用して試料の表面形態および粗さを確認しました。AFMカンチレバーは、全長12 µmのUltrasharp CSC37/no Al(MikroMasch, Tallinn, Estonia)を用いました。試料は接触モードで得られました。動作パラメータは、カットオフ周波数150 Hz、ゲインファクター0.05、動作点0.3 V(Vsum = 1.3 V〜1.5 V)、スキャンサイズ100 × 100 µm²および30 × 30 µm²、ライン速度0.3 Hz、解像度512 × 512でした。AFMソフトウェアには、ラインスキャンの長さに対応するハイパスフィルターが用意されています。このため、複雑な形状や波状は表面粗さ値の計算に影響を与えません。すべての表面粗さ値は、100 × 100 µm²のスキャンフィールド内の10個の断面高さプロファイルから計算されました。


 2.5. エネルギー分散型X線分光法(EDX)
 研磨された試料の表面均一性を測定するために、Quanta FEG 250(FEI Company, Eindhoven, The Netherlands)と組み合わせたEDAX TEAM検出システム(EDAX/AMETEK, Berwyn, PA, USA)が使用されました。EDXは、1 µm幅のラインスキャンで、1ラインスキャンあたり400測定点を8ラインスキャンで平均化し、事前定義されたラインに沿って実施されました。加速電圧は20 kVでした。元素選択はMo、Cr、Co、Fe、およびWに限定しました。


 2.6. 統計解析
 統計解析は、IBM SPSS Statistics Software Version 29.0.1.0(IBM, Chicago, IL, USA)を使用して行いました。すべての平均表面粗さ値Ra(10ライン測定の平均)は、Shapiro-Wilk検定で正規性を確認しました。異なる方法のRa値の対ペア比較は、独立サンプルKruskal-Wallis検定で分析しました。有意水準は0.05です。


3. 結 果
 3.1. サンドブラスト処理と機械的およびプラズマ研磨された歯科用Co-Cr合金: SEM
 サンドブラスト処理、従来の機械的研磨およびプラズマ電解研磨によって、処理されたCo-Cr合金の電子顕微鏡画像を図2に示し比較します。SEMで観察すると、Heraenium® SunおよびWironit®の試料は同様の表面特性を示しました。図2a-cに示すように、サンドブラスト処理された試料は不規則なエッジ、隆起、より深い空隙を持つ粗い表面形態を示しました。従来の機械的研磨後(図2d-f)、表面はサンドブラスト処理と比較して滑らかでした。方向が変化する多数の研磨痕が明らかでした。プラズマ電解研磨された表面は、研磨痕のない全体的に滑らかな表面を示しました(図2g)。高倍率で観察すると、多数の不均一性と点在する島状構造が明らかになりました。

​図 2

図2. サンドブラスト、機械研磨、プラズマ電解研磨されたCo-Cr合金のSEM顕微鏡写真の比較


(a) サンドブラストされたWironit®の概観。表面の粗さが確認できる。
(b) サンドブラストされたWironit®のクローズアップビュー。表面が粗く亀裂が確認できる。
(c)サンドブラストされたHeraenium® Sunの高倍率画像。 凹凸やエッジ、深い空隙を持つ不規則な表面を確認する。
(d) 機械研磨されたHeraenium® Sunの概観で、機械研磨領域(*)とサンドブラスト領域(S)の明確な境界を示す。
(e,f) 高倍率での機械研磨されたHeraenium® Sunは、多数の研磨痕を伴う平滑な表面を示す。
(g) プラズマ電解研磨されたWironit®の概観。全体的に平滑な表面を示す。
(h) プラズマ電解研磨されたWironit®のクローズアップ。多数の不均一性を伴う平滑な表面を示す。
(i) プラズマ電解研磨されたWironit®の高倍率画像。点在する島状構造を伴う平滑な表面を示す。

 3.2. サンドブラスト処理、機械的およびプラズマ研磨された歯科用Co-Cr合金: AFM
 サンドブラスト処理、従来の機械的研磨およびプラズマ電解研磨によって処理されたCo-Cr合金の3D AFM画像を図3に示します。AFM画像は、SEM画像と比較可能な結果を示し、異なる研磨方法で処理された試料の高さに関する洞察も提供します。Heraenium® SunおよびWironit®の全体的な挙動は、異なる研磨方法に対して非常に類似していることがわかります。サンドブラストされた表面は粗い外観を示します(図3a,d)。プラズマ電解研磨された試料は、全体的に滑らかな表面の中に不均一性が点在しています(図3b,e)。機械研磨された試料は、小さな不均一性を含む滑らかな表面に傷が見られ、プラズマ電解研磨のものよりも目立たない不均一性を示しています(図3c,f)。

​図 3
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図3. サンドブラスト処理、機械的およびプラズマ電解研磨されたCo-Cr合金の3D AFM画像の比較
※AFM画像の幅と高さは100 µmで、コントラストを良くするためにOpenGL照明で表示しています。


(a) サンドブラスト処理により不規則な空隙を持つ粗い表面を示すWironit®試料。
(b) プラズマ研磨により不均一性と点在する島状構造を示すWironit®試料。
(c) 機械研磨により多数の研磨痕を持つ滑らかな表面を示すWironit®試料。
(d) サンドブラスト処理により粗い表面を示すHeraenium® Sun試料。
(e) プラズマ研磨により滑らかな表面を持つが、僅かに不均一性と点在する島状構造を示すHeraenium® Sun試料。
(f) 機械研磨により多数の研磨傷を持つ滑らかな表面を示すHeraenium® Sun試料。

 図4は、サンドブラスト、機械的およびプラズマ電解研磨された歯科用合金の対応する水平高さプロファイルを含むAFM画像の典型的な例を示す。

​図 4
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図4. サンドブラスト、機械的およびプラズマ電解研磨後のCo-Cr試料のAFM画像と対応する水平高さのプロファイル


(a) サンドブラスト処理によりHeraenium® Sun試料(100 µmサイズの正方形)は、マイクロメートル範囲の表面粗さを示す。
(b) 機械研磨されたWironit®試料(30 µm角)を示す。
(c) 機械研磨されたHeraenium® Sun試料(30 µm角)示す。
(d) プラズマ電解研磨されたWironit®試料(100 µm角)示す。
(e) プラズマ電解研磨されたWironit®試料(30 µm角)示す。

 サンドブラスト処理された試料は、両方の合金において一般的にマイクロメートル範囲の高い表面粗さを持っていました。図4aに示すサンドブラストされたHeraenium® Sun試料の例では、粗く不均一な表面形態が見られます。水平高さラインプロファイル(1)に示されるように、高さの変動は7マイクロメートル以上であることが示されいます。図4bに示すように、従来の機械研磨を施したWironit®試料の微細構造では、規則的でパターン化された島状構造と多数の研磨痕を持つ滑らかな表面が見られます。黒い矢印で示される島の例は、長さ約5 µm、幅は約2.5 µm、最大高さ約30 nmです。SEMで観察された傷も明らかであり、それらは最も低い構造を形成しています。試料表面の全体的な高さは144 nm(図4b)で、サンドブラスト試料の約10 µmに比べて約100分の1です。図4cに深い研磨痕の例が示されています。プラズマ電解研磨で得られた表面は、図4dに示されるように両方の合金で傷のない滑らかな表面が見られます。しかし、多数の点在する周期的な島が見られます。水平高さプロファイルが示す島の例は図4eに示されています。ここでは、島の高さは約0.5 µm、長さは約7.5 µm、幅は約5 µmです。

​図 5
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図5. サンドブラスト処理、従来の機械研磨およびプラズマ電解研磨を施したHeraenium® SunとWironit®の統計解析


(a) 表面粗さ値Raの比較。Ra値はSIの表S1およびS2に記載されています。
(b) Heraenium® Sun試料の表面粗さ値のペアワイズ比較。有意水準は0.05です。
(c) Wironit®試料の表面粗さ値のペアワイズ比較。有意水準は0.05です。
(d) 各時間におけるプラズマ電解研磨中の材料損失の比較。データはSIの表S3に記載されています。

 図5a は、サンドブラスト処理、従来の機械研磨およびプラズマ電解研磨を施した試料の平均粗さRaの全体的な比較を示しています。すべてのRa値は、SIの表S1および表S2に示されています。サンドブラストされた試料は、最も高い粗さ(Heraenium® Sun 991 ± 288 nm; Wironit® 1187 ± 331 nm)を示し、次いでプラズマ電解研磨(Heraenium® Sun 288 ± 94 nm; Wironit® 261± 49 nm)でした。従来の機械研磨では、最も低い粗さの値(Heraenium® Sun 134 ± 23 nm; Wironit® 114 ± 11)が得られました。Heraenium® Sunプラズマ処理、Wironit®サンドブラストおよびWironit®プラズマ処理の平均Ra値は正規分布に従わないことが判明しました(p < 0.05)。

 統計解析により、機械研磨された試料(Heraenium® Sun p < 0.001, Wironit® p < 0.001)およびプラズマ研磨された試料(Heraenium® Sun p < 0.011, Wironit® p < 0.010)の表面粗さがサンドブラストされた試料よりも有意に低いことが示されました。従来の機械研磨(Heraenium® Sun p < 0.021; Wironit® p < 0.015)は、プラズマ電解研磨に比べて有意に低い表面粗さ値を提供しました(図5b,c)。プラズマ電解液バスでの処理時間は5分に制限されました。これは、電解液中に長く浸漬することにより、多くの合金が失われるためです(図5d)。5分の浸漬による合金の損失量は、Heraenium® SunおよびWironit®では同程度でしたが、浸漬時間が長くなるとWironit®の方が損失増加しました。

 3.3. サンドブラスト、機械的およびプラズマ電解研磨された歯科用Co-Cr合金のEDX解析
 Wironit®試料のEDX解析では、Cr、Co、MoおよびWの不均一な表面分布が見られます(図6a)。ここでは、左下から右上へのラインスキャンで、Cr、Co、MoおよびWの相対強度が得られ(絶対強度については補足情報の図S1を参照)、CrとCoは類似した挙動を示し、Moはわずかに異なる挙動を示します。WはPDAの組成(表1)から予想されるように、わずかに存在を示します。ラインスキャンに沿って、20 µm、60 µmおよび80 µmの距離で、CrとMoの相対的な高強度と、同時にCoの強度の低下が見られ、これはREM画像の明るいリッジに対応します。30 µmの位置でのCo、Cr、MoおよびWの最小EDX相対強度は、REM画像では暗い谷として表れます。ここで、25 µmから30 µmの間でのみ、CoとCrの信号が見られます。ラインスキャンの終わりまでの約35 µmの距離では、約75%の相対強度でCoとCrのほぼ一定の関連が見られ、変動幅は約25%です。同じ範囲でのMoの相対強度は大きく変動し、元素の広がりが非常に不均一であることを示しています。

​図 6

図6. EDX測定の比較


(a) サンドブラストされたWironit®試料を定義されたラインに沿ってEDX分析。Mo、Cr、Co、およびWが選択され、それぞれの濃度曲線が示されています(SEMおよびEDX:1000倍拡大)。
(b) 従来の実験室で研磨されたWironit®試料を定義されたラインに沿ってEDX分析。Co、Cr、およびMoが選択され、それぞれの正規化された濃度曲線が示されています(SEMおよびEDX:1000倍拡大)。
(c) プラズマ電解研磨されたWironit®試料の定義されたラインに沿ってEDX分析。Co、Cr、Mo、およびWが選択され、それぞれの正規化された濃度曲線が示されています。SEM画像は1000倍拡大で示されています。

 従来の機械研磨されたWironit®試料のEDX解析結果は、図6bに示されているように、SEM画像の右上から左下へのラインスキャン(黒線)を示しています。ここで、CrとMoの相対強度は一致する強度ピークを示し、CoはCrとMoのピークで濃度が減少し、合金組成の局所的な変化を示しています。SEM画像との比較では、島状の領域がCrとMoのピークおよびCoの減少と関連していることがわかります。図6cに示されたプラズマ電解研磨されたWironit®試料のEDX解析は、図6bで見られる挙動を示しています。下から上への対角線スキャン(黒線)では、埋め込まれた島内でCrとMoの相対強度ピークがCoの谷と一致しています。60µmの距離で露出した島は、CoとCrの類似したEDX強度ピークを持ちますが、Moのピーク寄与は露出によって失われています。

4. 議 論
 本研究は、サンドブラスト処理、従来の機械研磨およびプラズマ電解研磨によって処理された歯科用Co-Cr合金の系統的かつ詳細な比較に関して新規性を有します。実体顕微鏡、AFMおよびSEMを含むさまざまな顕微鏡観察方法、表面粗さ測定、およびEDX解析を組み合わせて使用しました。このような系統的な比較研究は、特にプラズマ電解研磨された歯科用Co-Cr合金に関しては、これまでほとんど行われていません。我々の知る限り、さまざまな検査方法を使用して歯科用Co-Cr合金の従来の機械研磨とプラズマ電解研磨を比較したのはこれが初めての研究です。


 歯科用合金の表面は、バイオフィルム形成を抑制するためにできるだけ滑らかである必要があります【9】。Bollenら(1997)【10】が報告したように、一部のin vivo研究では、表面粗さRaの閾値は0.2µmであることが示唆されています。表面粗さが0.2µm以下になると、バイオフィルム形成のさらなる減少は見られません。我々の研究では、サンドブラストされた試料の表面粗さがHeraenium® SunおよびWironit®の両方でミクロン範囲であることが示されました。これらは最も高い粗さを示し(Heraenium® Sun 991 ± 288 nm; Wironit® 1187 ± 331 nm)、サンドブラストされた歯科用合金がリッジ、エッジ、および深い空隙を持つ粗い表面を示すという我々の観察結果は文献と一致しています【13】。


 文献によれば、歯科用Co-Cr合金の顕微鏡観察は典型的なデンドライト/インターデンドライト微細構造を明らかにしています【14】。従来の機械研磨およびプラズマ電解研磨の後、我々の研究では研磨された表面上で合金の微細構造を見ることができました。これらの結果は、Co-Cr合金が滑らかなデンドライト領域と、顕著な島を形成するナノ結晶のクラスターを含むインターデンドライト領域からなることを示した他の研究と一致しています【18】。島の表面サイズは4~80µm²の範囲で、島の高さは90~160nmの範囲でした【14】。我々の研究は、島のサイズについて記述されたものを確認できるため、一致しています。


 従来の機械研磨された試料は、多数の研磨痕を持つ滑らかな表面を持っています【14】。これらは我々の結果とよく一致しています。プラズマ電解研磨(Heraenium® Sun 288 ± 94 nm; Wironit® 261 ± 49 nm)および従来の機械研磨(Heraenium® Sun 134 ± 23 nm; Wironit® 114 ± 11 nm)の両方で表面粗さの減少が見られました。プラズマ研磨された歯科用合金の表面粗さ分析に関するAFMを使用した研究はこれまでほとんど行われていません。これまでの文献においてAFMを使用して機械研磨されたCo-Cr歯科用合金を調査した研究は1つだけです【12】。残念ながら、文献の表面粗さ値(Sa)は矩形領域から測定されたものであり、我々の研究ではラインスキャンから表面粗さ値(Ra)が使用されたため、比較はできませんでした。


 プラズマ電解研磨は表面の不均一性を除去する効果が低い可能性があり、これは合金組成の違いによるものと考えられます。プラズマ電解研磨は、調査された歯科用合金(Wironit®およびHeraenium® Sun)のRa、処理時間および必要な設備を減少します。従来の機械研磨に共通する研磨ペーストの残留物および研磨痕は、プロセスの化学的性質により見られず、滑沢な表面を得ることができます。プラズマ電解研磨は、Raを減少させる点で従来の機械研磨より効果が低いです。従来の機械研磨によって得られたRaはバイオフィルム形成を抑制するのに十分です。プラズマ電解研磨によって得られたRaは、バイオフィルム形成の閾値の表面粗さ0.2µmをわずかに上回ります【10,19】。合金資料の前処理を改善することで、0.2µm以下の表面品質を達成可能です。バイオフィルム形成の抑制を明確に示すためには、追加の微生物学的およびin vivo実験が望ましいです。


 文献のいくつかの報告【18,20,21】では、デンドライト領域とインターデンドライト領域は構造が異なるが、組成はわずかに異なるだけであるとされています。デンドライト領域は立方最密充填結晶格子構造として、インターデンドライト領域は六方最密充填格子構造として説明されています。文献とは対照的に、我々は島とその周囲の滑らかな部分との間に大きな組成の違いを示しています。これはEDX解析(図6)で示されました。研磨試料のEDXプロファイルでは、島上でCoの相対強度が減少し、CrとMoの相対強度が増加しました。この傾向は、両方の研磨方法(機械研磨およびプラズマ電解研磨)で同様のため、表面形状によって引き起こされるアーティファクトである可能性は非常に低いです。サンドブラストされた試料のEDXプロファイルでも、元素組成のCo、CrおよびMoの変動が同様の傾向を示しています。


 実験結果の主な制限は、試料数(表面粗さn=10; EDX n=1)です。さらに、従来の研磨中の研磨負荷は調査されませんでした。この実験結果の主な臨床的意味合いは、従来の機械研磨はプラズマ電解研磨と比較して低い表面粗さ値を提供し、ゴールドスタンダードと見なされることです。

5. 結 論
 この研究では、従来の機械研磨とプラズマ電解研磨によって得られた歯科用合金Heraenium® SunおよびWironit®の表面粗さ(Ra)を、初期のサンドブラストと比較しました。サンドブラストされた試料は最も粗く(Heraenium® Sun 991 ± 288 nm; Wironit® 1187 ± 331 nm)、次にプラズマ電解研磨(Heraenium® Sun 288 ± 94 nm; Wironit® 261 ± 49 nm)であった。従来の機械研磨ではより低い値が見られます(Heraenium® Sun 134 ± 23 nm; Wironit® 114 ± 11 nm)。

 プラズマ電解研磨の所要時間はわずか5分であり、従来の方法に比べて手間のかかる手動研磨が必要ありません。Heraenium® SunおよびWironit®のプラズマ電解処理による材料損失は、5分の処理時間で4%w/w未満でした。

 

 AFMおよびSEMによる表面観察では、小さな規則的な構造(島)が点在し、その周囲の滑らかな領域とは異なる組成を示す微細構造が明らかになりました。プラズマ電解研磨の結果は、表面粗さに関して従来の機械研磨で得られる品質に劣ります。従来の機械研磨によって得られる表面粗さは、バイオフィルムの抑制に十分です。プラズマ電解研磨で得られる表面粗さは、バイオフィルムの抑制にわずかに上回っています。Raはサンプルの初期構造と粗さに依存し、材料損失を最適化するためには適切なプロセスパラメータを確立する必要があります。

 

 全体として、我々の結果は、プラズマ電解研磨が処理時間の大幅な短縮と比較して従来の機械研磨に対して有効な研磨方法であることを示唆しています。表面粗さ値をさらに減少させるために、プラズマ研磨パラメータの改善が必要です。

補足資料
以下の補足情報はhttps://www.mdpi.com/article/10.3390/ma16186222/s1でダウンロードできます。
Table S1: 従来の機械研磨、プラズマ電解研磨、および未研磨のサンドブラスト状態後のHeraenium® Sunサンプルの粗さRaとAFM分析(ライン長100 µm)から得られた関連標準偏差∆Ra。


Table S2: 従来の機械研磨、プラズマ電解研磨、および未研磨のサンドブラスト状態後のWironit®サンプルの粗さRaとAFM分析(ライン長100 µm)から得られた関連標準偏差∆Ra。


Table S3: プラズマ電解研磨によるサンプルの重量減少。


Figure S1: 未研磨のリファレンス状態におけるサンドブラスト処理された試料。
(a) 未研磨のHeraenium® Sun試料の画像(1000倍拡大;SEM)。
(b) 未研磨のHeraenium® Sun試料に見られる峡谷(1000倍拡大;SEM)。
(c) サンドブラスト処理されたHeraenium® Sun(BMA)試料を定義されたラインに沿ってEDXで分析。
(d, e) Co, Cr, Mo, Wが選択され、それぞれの濃度曲線が示されている(1000倍拡大;SEMおよびEDX)。
(f) サンドブラスト処理されたWironit®(PDA)試料を定義されたラインに沿ってEDXで分析。Mo, Cr, Co, Wが選択され、それぞれの濃度曲線が示されている(1000倍拡大;EDX)。絶対強度が示されている。相対強度はFigure 3b, cおよび元のSEM画像に示されている。

Mechanical and Plasma Electrolytic Polishing of Dental Alloys
​歯科用合金の機械研磨とプラズマ電解研磨

出展元 Materials 2023,16,6222.https://doi.org/10.3390/ma1618622

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